多くの応援とご参加で無事閉幕した「日本全国アートの旅inさいたま」。
今回は、準グランプリを受賞された豊吉 雅昭さんに普段の生活や作品についてお話を伺いました。
- 準グランプリおめでとうございます!
Q.今回展示に出した作品のテーマや作品に込めた思いがあれば教えてください。
- 今回出展した作品は、私が制作しているシリーズ「Monocle Vision」のうちの一つです。私は左目が殆ど見えない視覚障害者で、晴眼者とは異なる光景を見ています。遠くのものが近くに見えたりまたその逆もある”遠近感の混乱”、そこには存在しないものが見える”幻視 " 。ものの細かい部分は認識できないために話している人の声を聞かないと性別すら間違えることもあります。そんな自分の”見えない視界”を表現するために制作しているのがこのシリーズです。横断歩道を渡るときに信号が見えなかったことから”信号はどこに”。日中は白く霞んで見えることから”目が霞む”。などなど。見えない色もあることから、昨年4月までは全て白黒作品で制作していました。4月での初めての個展開催を契機に、カラー作品にも取り組み始めており、この”染まりやすい視界”は色を表現の主題にした作品です。今回出展した作品はスペインで撮影したものになります。向こうは日本と異なり建物の高さが3~4階ぐらいで、その分空がとても広く見えました。また日照時間帯が異なるからなのかその青さが強く印象に残っています。あとやはり古い街でしたので歴史ある建造物が多く、東京とは異なる趣を表現することにも重きを置きました。
Q.今回デジタル作品での出品でしたが、色彩の鮮やかさや、遠くから見たときと近くで見たときの印象がまた違って見えてとても魅力的な作品でした。普段からこういった作風で作品を制作されているのでしょうか?また制作過程や完成までにかかる時間がとても気になります。
- 作品制作はこのスタイルで普段から取り組んでいます。制作はまず視覚体験があった場所で経験したこと、見えた内容をメモします。後に、写真を複数枚撮り、帰宅後に撮影した写真を確認。これを現像後に選んだものを複数枚重ねて、自分がメモした内容、視覚体験を再現した作品に仕上げます。時間はうまくいく場合は数時間で仕上がりますが、長いと1年以上かかるケースもあります。スペインの作品は撮影から制作まで2年以上かかっています。また最近はプリントする紙を色々変えているため、出展作品の制作に数ヶ月かかることも珍しくなくなりました。
Q.以前はアート系とはまた違った分野で活躍されていたそうですが、現在のようなデジタルツールを用いた作品制作を行うようになったきっかけはなんですか?
- 元々システムエンジニアとして都内のIT企業で働いていました。ものづくりは好きでしたしコンピュータも好きだったのですが、眼を悪くして退職しました。その後色々あって目の悪化が進み、外科治療にまで至ったことが直接のきっかけです。このあたりの経緯は寄稿文としてまとめていて、こちらに掲載されていますのでよろしければご参照ください。
Q.これまでピアニストの方のポートレートの制作やテレビ番組への出演など、さまざまなご経験をされてきたとのことですが、作品制作をしてきて一番印象に残っていることは何ですか?
- 色々ありますが、「諦めなければ、できることはある」です。私は眼の状態が悪化して初めての手術を受けたあと、その結果が芳しく無いことから”もうあとは見えなくなっていくだけなんだ”と絶望した時期があります。色々なご縁があって、写真に傾倒するようになったわけですが、制作を始めた当初の評価は散々なものでした。しかし制作を続け、実績を重ねていくうちに応援してくれる人や理解してくれる人も増えていきました。そもそも撮影時にピントの合焦点も見えないので、まともな写真が自分でも撮れなかったわけです。でも使用する機材や制作の仕方を工夫することで作品制作を続けることができています。いずれも”もう無理”と投げてしまっていたら得られなかった経験です。
Q.自身の作品の中でとくにこだわっている部分・見てほしい部分などがあれば教えてください。
- これも色々ありますが、多面的に見てもらえるように色々な要素を取り込んでいます。写真作品で多く気にされる要素は撮影技法や撮影場所です。物の形や色を崩していますから明確にはわからないと思いますが、その場所を表す部分を必ず残すようにしています。撮影技法の点(多重露光)では、何枚の写真を使用しているのか推測してもらえると面白いと思います。細かい部分を残したりしているので、よくよく近くで見ると意外なものが写っていたりします。逆に遠くから全体を見ると印象が異なる要素もあります。また、私の普段の見え方を再現していますから、”緑内障が進行するとこのように見える”かも、と見てもらえるようにも意図しています。色や形の細かな部分だけでなく、病気の啓発といった意味合いも念頭に置いているので、これらの意味でも複数の見方をしてほしいです。多様性というのはアート作品の長所でもあると思っていますから。
- 豊吉 雅昭さん、今回は準グランプリインタビューにご協力くださりありがとうございました。今後のご活動も楽しみにしております!
- こちらこそありがとうございました!今年は入選以上の結果が目標の12を超し、また来年も引き続き頑張っていきます。どうかよろしくお願いします。
染まりやすい視界 2.16
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