映画撮影所の美術課、歌舞伎座の舞台背景──そこで絵筆を握ってきた時間は、ただ絵を描く訓練ではなく、「見えないものを見せる」技術を磨く日々だったのかもしれない。michaの透明水彩には、デッサンで養った構造と、錦絵風の装飾性、そして何より「その場の空気感」を定着させようとする静かな意志が流れている。筆が水を含み、顔料が紙に沈んでいく瞬間に立ち会うような、緊張と開放が同居する画面。
作品紹介
青い空が画面いっぱいに広がり、そこを何かが駆け抜けていく気配──色彩と余白が呼吸するように配置された一枚は、見る者の視線を自然と上方へ誘う。舞台背景画で学んだ「奥行きと空間の演出」が、ここでは平面の中に立体的な時間を生んでいる。錦絵風の色面構成と、透明水彩ならではの滲みや重なりが、静止した画面に動きの予感を与えている。
空を見上げる行為そのものが、日常から少しだけ離れる儀式になる。この一枚は、そんな瞬間を手元に留めておくための装置なのかもしれない。
舞台も映画も、光が消えれば幻になる。けれどもmichaの水彩画は、そうした儚さを紙の上で留めようとする試みでもある。眺めるうちに、風景の奥に人の営みや季節の息遣いがうっすらと浮かび上がってくる。日常の中へ一枚の絵を迎え入れることは、時間の流れ方を少しだけ変えることなのかもしれない。