水たまりをのぞき込むと、空の色の下で小さな生きものが身を寄せ合い、揺れる水面に輪郭を溶かしている。駿河 愛子の「Puddle」の連作は、そうした水中の気配と、水を透かして届く光を画面に留めようとするシリーズだ。作家は栃木県に生まれ、春陽会を舞台に発表を重ねてきた。重なり合う生物のゆらぎと、水の色をまとった光。二つの主題は対照的でありながら、同じ水の中で静かにつながっている。見慣れた水辺の風景が、少し違った奥行きを持って見えてくるだろう。
重なり、ゆらぐ水中の生物
水面の下では、いくつもの影が重なり、どこまでが一つの生き物なのか分からなくなる。輪郭は水の動きに合わせて薄れ、また浮かび上がる。「Puddle I」と「Puddle II」を並べると、ゆらぎの速さや、画面にひそむ密度の違いが見えてくる。その揺れ方は、一枚ごとに異なる呼吸のようだ。目を凝らすほど、静止した画面の中に水の流れが立ち上がってくる。
同じ水の中でも、ゆらぎの調子はひとつではない。前の一枚で感じた重なりの気配は、次の画面でどんな間合いに変わるのか。
重なりもゆらぎも、はっきりと言い切れないところに魅力がある。水の中の生物は、見る人の視線によって数も形も変わっていく。その曖昧さは、画面を長く眺めるための心地よい余白でもある。
水の色を透かす光
水の底に目を向けていた視線が、ふと上へ移る。水を通り抜けた光は、どんな色をしているのだろう。「Puddle 4」では、生物の気配の向こうに、水の色を透かした明るさが広がる。光は形を持たないぶん、色の移ろいや濃淡としてそっと現れ、画面全体の空気を決めていく。水そのものが光をたたえているような静けさが、見る側の呼吸をゆるやかにする。
生物の気配が遠のいたあとに残るのは、水の色と、そこを通る光の静かな明るさ。見終えたあと、身近な水面の光の見え方が少し変わっているかもしれない。朝と夕で受け取る印象も、きっと違ってくる。
水の中の重なりと、水を透かす光。二つの視点で眺めた「Puddle」の世界は、飾る場所の光や時間によって、また違う表情を見せてくれるはずだ。駿河 愛子の作品は、コレクションページで一覧できる。手元に迎えることを考える方にとっては、一点ずつの色味や密度を見比べる時間も、作品選びのささやかな楽しみになるだろう。