雪の朝、落ち葉の道、何度も歩いた山道。私たちは日々、数えきれないほどの風景に出会い、すれ違い、忘れてゆく。けれど時折、ある場所、ある光景が、ふと心に引っかかることがある。ma-3が描くのは、そうした「引っかかり」の正体だ。心理学を学び、形而上学的具象という独自の領域を探求してきた彼の作品は、目に見える風景のなかに、もうひとつの層を静かに立ち上げる。日常の散策から始まり、やがて物語の次元へ――その旅路を辿ってみたい。
静謐な散策―日常の詩学
雪が降った翌朝、いつもの道を歩く。足跡のない白い路面、枝に残る雪の重み、静まり返った空気。何も特別なことは起きていない。けれど、そこには確かに何かが宿っている。ma-3が描く日常の風景は、劇的な出来事を必要としない。むしろ、何気ない時間の流れのなかにこそ、心の動きは静かに息づいている。雪景色と紅葉、繰り返される散策という行為が、作品にどんな詩学を刻むのか。
行きと帰り。同じ道でも、時間の向きが変われば風景もまた別の顔を見せる。
雪の冷たさから、季節は巡る。黄色く色づいた葉の下を歩くとき、空気はどこか柔らかい。
歩くこと、見ること、立ち止まること。それらの反復が、風景を単なる背景ではなく、内面と呼応する場へと変えてゆく。
初めて絵を買う方へ
絵を選ぶ際は、まず自分の部屋でどのサイズが心地よいか想像してみてください。小さめから始めると、空間に合わせやすく失敗も少ないでしょう。作家の背景や制作意図を知ることで、絵との関係がより深まります。価格よりも、目が惹かれ何度も見たくなる一枚を選ぶことが大切です。
場所の記憶―鷹取山
ある場所に、繰り返し足を運ぶということ。それは単なる習慣ではなく、土地との対話だ。鷹取山という固有の名を持つ場所が、ma-3の作品に何度も現れる。朝の光、散策の道筋、季節ごとに変わる表情。同じ場所を描くことで、風景は記憶の層を重ね、やがて個人的な物語を帯びてゆく。特定の土地に寄り添うことが、どのような深度を作品にもたらすのか。
朝の静けさを離れ、散策はさらに奥へと続く。同じ山でも、光の角度が変われば見えるものも変わる。
場所は、訪れるたびに新しい。そして同時に、いつも変わらない。その矛盾のなかに、記憶と現在が交差する瞬間がある。
物語の次元へ
日常の風景を丁寧にすくい上げてきた視線が、ある時、別の次元へと跳躍する。「アストロイド・ファーム」という題が示すのは、もはや地上の散策路ではない。想像上の農場、宇宙の片隅に浮かぶ土地。形而上学的具象という言葉が、ここで具体的な像を結ぶ。日常を超えた物語の領域へ、ma-3の筆は静かに、しかし確かに踏み込んでゆく。
現実と想像、具象と抽象。その境界線は曖昧で、だからこそ豊かだ。物語はいつも、見慣れた風景の裏側から立ち上がる。
日常の風景は、見る者の内側に呼応する。雪道も、山の朝も、想像上の農場も、すべては心の在りようによって異なる表情を見せる。ma-3の作品は、そうした内的な旅へのささやかな招待状だ。2025年ゴールデンウィーク、横浜みなとみらいギャラリーで開かれる個展では、さらに多くの風景が待っている。静かに、ゆっくりと、自分だけの物語を見つける時間を持ってみてはどうだろう。