何気ない日常のなかで、ふと立ち止まる瞬間がある。空を見上げたとき、遠くで誰かが呼ぶ声を聞いたとき。樹村ようこの作品は、そんな曖昧で捉えがたい感覚を、色とかたちで留めようとする試みだ。具体的な物語を語るのではなく、見る者の内側にある記憶や感情を静かに引き出していく。彼女の画面には余白があり、そこに私たちの体験が重なっていく。今回ご紹介する2点の作品は、いずれもそうした「言葉にならない何か」を宿している。
作品紹介
言葉にできない感情は、ときに音として、あるいは色として現れる。吠えるような声、囁くような風。それは怒りかもしれないし、歓びかもしれない。樹村ようこが描く抽象の世界には、そうした曖昧な感情の揺らぎが息づいている。形を持たないからこそ、見る者の内側に自由に共鳴していく。
では、その感情の波が空へと向かうとき、どんな色彩が立ち上がるのだろうか。
どちらの作品にも、説明を拒むような静けさがある。それは沈黙ではなく、むしろ語りかけを待っている余白なのかもしれない。
樹村ようこの作品は、眺めるたびに異なる表情を見せる。それは絵そのものが変わるのではなく、見る側の心の状態が映り込むからかもしれない。日常の中に小さな裂け目を見つけたとき、そこに彼女の色彩があれば、世界はもう少し豊かに感じられるだろう。あなたの空間に迎え入れる一枚として、静かに寄り添ってくれるはずだ。