インクが紙の上で広がる瞬間、作家の意図と偶然が交差する。中嶋 裕子が選んだアルコールインクアートは、コントロールと手放しのバランスが問われる表現だ。奈良に生まれ、女性としてのキャリアに悩んだ時期を経て、彼女はこの技法と出会った。心を救ってくれたアートを人生の軸にしようと決意し、未経験からアーティストへ転身。やがて北海道の自然豊かな土地で作品を届ける場を得て、今もその歩みは続いている。
作品紹介
エメラルドという色には、森の奥深さと水面の透明感が同時に宿っている。中嶋裕子が手がけた2点の作品は、いずれもこの色を軸としながら、まったく異なる表情を見せる。アルコールインクが紙の上で自由に流れ、偶然の形を生み出す過程で、作家はどこまで手を添え、どこで委ねるのか。その選択が、作品ごとの個性となって結実する。
ひとつの色相が見せる表情の幅は、光の角度や配置によってさらに広がる。
同じ色を起点にしながら、流れの速度や重なりの深さによって、作品は異なる時間と空間を描き出す。エメラルドの記憶が、それぞれの日常にどう溶け込んでいくだろう。
偶然と必然が織りなす色彩は、見る者それぞれに異なる風景を見せてくれる。中嶋裕子の作品は、日々の暮らしに自然の記憶を呼び起こし、静かな対話の時間をもたらす。壁にかけたとき、空間はどんな表情を見せるだろうか。アルコールインクが刻んだ軌跡に、あなた自身の物語を重ねてみてほしい。